天翔ける君



「話があるんだけど、入ってもいい?」

言い終わるが早いか、襖がすっと開いた。

「また悩み事か?」

出迎えてくれた千鬼は首を傾げながらも快く招き入れてくれた。

「悩みとはちょっと違うんだけど」

千鬼を訪ねたはいいが、どうやってきり出すかまでは考えてこなかった。

そもそも、恵都は駆け引きなどは苦手だ。
だからといって単刀直入に聞くのもはばかられる。

出された座布団の端を無意味に握りしめた。

恵都がきてから、千鬼の私室は少しずつ変わっていった。

恵都が座るうさぎの描かれた可愛らしい座布団もその変化の一部で、いつの間にか用意されていた。
床の間にも花が飾られ――これは恵都の仕業だが、殺風景の一言では言い表せなくなっていた。

「あのね」

恵都は視線を泳がせる。
千鬼は辛抱強く恵都を見つめ、じっと続きを待った。



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