天翔ける君
「……その――千鬼って、結婚するの!?」
結局直球でしか聞けず、しかも最後の方は大声になってしまった。
恵都は咄嗟に俯いて、赤くなった顔を隠した。
なにも言わず黙ってやり過ごさないと決めたのはいいが、なにもここまで直球でなくてもいいのに、と自分をうらめしく思う。
「……結婚?オレが、か?」
恵都が顔を上げると、千鬼は眉根を寄せ、いぶかしげに首をひねっていた。
「この前、山吹さんが言ってたんだよ。千鬼が結婚するかもって」
「あぁ、そういえばそんな話もあったな」
自分の、しかもかなり重要であるはずのことなのに、たった今思い出したように頷いて、
「オレは誰かの寄越した相手と結婚などしない。結婚するのは好いた女だけだ」
千鬼は極上に妖艶な微笑みを浮かべた。
反則級の微笑みで見つめられて、恵都は再び顔に朱をのぼらせしまい、それをごまかすように慌てて問う。
「誰かが寄越した相手って?どういうこと?」
「他の町の主から、娘をもらってくれないか、という文が送られてきた。政略結婚というやつか、たまにそういう類の話がくるんだ」
へぇ、と恵都は気の抜けた返事をした。
本当に気が抜けて、安堵したせいで倒れ込みそうだ。
「……そういえばまだ返事をしていなかったな。面倒だが返事を書くか」
ひとり言をつぶやいた千鬼は恵都の様子には気づかず、不服そうにため息をもらした。
とりあえずこの平和な生活が続けられるのだと思うと、恵都は自然と笑みがこぼれた。
最初は逃げだったかもしれない選択が、新たな道へとなったのだ。
それは恵都自らの小さな勇気と努力で築かれた第一歩だった。