天翔ける君
黒の侵入者
その日は雨だった。
恵都の起き出す昼頃にはもう降っていて、そのうちにどしゃ降りになった。
雨の一粒一粒が強く屋根を叩いている。
「山吹さんおはよう。今日は雨だね」
「おはよう。寝坊してごめんね、オレ雨だとだるくてだるくて」
大きな欠伸をする山吹と談笑しながら、恵都は夕食の準備に取り掛かった。
オクラをさっと茹でて、すぐに冷水に浸す。
恵都は茹でたオクラを輪切りにして、醤油で味付けするだけの簡単な小鉢料理が好きだが、こちらの世界ではオクラは一般的な野菜ではないという。
山吹が昨日、偶然町で見かけたとかで、買ってきてくれたのだ。
恵都は昨日からこのオクラを楽しみにしていた。
隣の山吹がふと動きを止めて、眉をしかめた。
「山吹さん?どうしたの?」
恵都に答えず、山吹は人差し指を立てて口元にあてる。
「――静かに」
短くそれだけ言った山吹は緊張した面持ちで恵都を背にかばった。