天翔ける君
その瞳孔が猫みたいにすっと細くなったのを見て、山吹が臨戦態勢に入ったのが分かった。
以前、千鬼は敷地に結界を施してあるとかで、敷地内は安全だと言っていた。
それなのに、いったいどうしてだろう。
――怖い。
千鬼はまだ寝ているだろうし、恵都はこれからどんなことが起こるのか、どうすればいいのか分からない。
山吹の着物をつかんで、恵都は固く目をつむった。
雨がいっそう強くなった気がする。
「――心配ない」
千鬼の声が聞こえて、恵都は目を開けた。
まだ寝ていると思っていた千鬼がそこにはいて、恵都は涙腺が緩んだ。
きっと千鬼がなんとかしてくれる、と安心感に包まれる。
千鬼は左手でつかんでいた鞘から、すらりと刀を抜いた。
その涼しげな横顔に動揺の色はなく、静かに瞳が赤く灯る。
と同時に角と牙が生え、千鬼は優雅に瞳を閉じた。