天翔ける君
恵都にも分かるほど空気が張りつめる。
ぴりぴりと、少しでも動けば切れてしまいそうなほどに。
雨音が遠のいて聞こえるくらい、千鬼の凛とした様に目を奪われる。
千鬼が目の前の空間を袈裟斬りにした。
風を切るような音もなく、恵都の目では追えないほどの速さだった。
からんと音を立てて、千鬼の足元に折れた矢が落ちた。
それでやっと、飛んできた矢を千鬼が切り伏せたのだと恵都は知った。
矢には紙が括り付けてある。
矢文だ。
瞳の黒く戻った千鬼がそれを拾い上げた。
千鬼が細く折られた文を開くと、中から黒と黄色の髪の毛が一束ずつはらりと落ちた。
「これは」
山吹が膝をついて、落ちたものを確かめる。
「――柊(ひいらぎ)と嵐(あらし)のものに間違いない」
髪を拾い上げた山吹の声がわずかに震えている。