天翔ける君
「恵都ちゃん?」
山吹に声をかけられて、恵都は我に返った。
もう見えなくなっている千鬼を追いかけて、足早に彼の部屋へと向かった。
玄関で面頬を付けた千鬼は、腰の刀を確かめるようにそれに手を当てた。
「山吹、分かっていると思うが、くれぐれも恵都を頼む」
「ああ、こっちは心配すんなって」
面頬のせいで、千鬼の声がいつもよりくぐもって聞こえる。
千鬼は普段出かける時よりも重装備で、恵都は不安が募った。
胴や草摺りまでされると、本当に戦に行くみたいで、心がざわつく。
千鬼は鬼だ。
町の妖にも頼りにされていて、揉め事があるとよく駆り出されている。
恵都はよく知らないが、それでも千鬼が強いのだろうと分かる。
だから、恵都の心配は不要なことなのかもしれない。
――でも、心配だよ。
恵都は下唇を噛みしめ、不安を押し殺した。
「恵都」
顔を上げると、千鬼が困ったような笑みを浮かべていた。