天翔ける君
「今生の別れのような顔をしてくれるな」
「そんな顔、してないよ」
喉が引き攣れて、渇いた声が出た。
それでも恵都はなんとか笑ってみせた。
千鬼は恵都の頭を撫でて、額当てを差し出した。
甲冑と同じ色のそれは、変化した時の千鬼の瞳に似たきれいな赤をしている。
上がり框に腰かけた千鬼に額当てを付ける。
額当ては千鬼の頭の形にぴったりと合う曲線を描いている。
額当てといっても、千鬼の場合は角の邪魔にならないよう、実際につける位置は額よりも上だ。
紐をしっかりと結んだところで、恵都は覚悟を決めた。
きっと千鬼は、恵都がなにを言ったところで柊と嵐を助けに行く。
恵都だってふたりを助けてほしいと思っている。
会ったことのないふたりだが、千鬼と山吹の仲間なのだから無事でいてほしい。
だから千鬼が帰ってくると信じて待つ。
「気をつけてね」
恵都が言葉をかけると、千鬼はその頬に触れた。
ひんやりと冷たい手なのに、気持ちが落ち着いていく恵都は不思議に思った。