恋するキオク
私が髪を触りながらもじもじしていると、自分の始末を終えた圭吾がこっちに近づいてきた。
その姿を見るだけで、なんだかすごくドキドキしてしまって。
「ちょっと貸して」
「う、うん…」
私の頭についてる髪飾りを、私が痛くないように気遣ってくれながら
圭吾はそれを、
ひとつずつ外していった。
「ハハッ…、お前が変なやり方するから余計にむだかってんだよ」
「そ、そんなことないっ…痛っ」
「バカ、動くなって」
「う…、はい」
また、静かになる教室。
廊下からは、微かに体育館で響くマイクの音が聞こえてきて。
昨日のあの時から、こうしてまた二人だけで時間を過ごすのは今が初めてだったから。
どんな態度を、とっていいのか…
みんながいる所でなら、なんとなく明るくいつも通りに振舞えてたけど
二人になってしまえば、勝手に頭の中にはあの時の光景がよみがえってしまう。
「戻れなくなるよ」
昨日の放課後。
触れるだけの優しいキスをした後に、圭吾は私にそう言った。
多分省吾のところへ、そういう意味だったんだと思うけど。
私は何もためらわずに、それでもいいって言ったんだ。
圭吾はしばらく考えて、それからまた何度かため息をついて。
押さえていた私の手からそっと自分の手を外すと、私を机から抱き起こしながら「そっか」と言って笑ってた。
圭吾の中にも、きっといろんな想いがあったんだと思うけど
その時の私には、自分の気持ちを考える意外の余裕なんてなくて。
ただ、圭吾は少し悩むような顔をしてたから。