恋するキオク
違う、本当はこのこと自体に疑問があったんだ。
返事を急がされた。
なぜ今なのか。
もしかしてオレを、わざと遠くにやろうとしてるんじゃないかとも思えた。
「祖父ちゃん、何か省吾に頼まれてるんじゃないの」
オレの言葉に、祖父ちゃんは何も返さない。
それでも、オレの気持ちは大きく揺らされていた。
自由に、弾きたい。
一週間以内に返事を。
でもたぶん、オレの中での答えはあの場所で決まっていた。
そして治すことには目的もある。
上手く伝えられないオレだから。
音にならすべてを込められるから。
肩が治ったら、一番最初に作りたい曲があったんだ。
「圭吾!」
「野崎…、わ!」
全身に伝わる鼓動。
なぁ、野崎。
お前は一人で待ってられる?
笑ってるけど、目を見れば辛い目にあったことなんてすぐに分かった。
やっぱり迷う。
どうしたらいいんだろう。
抱きしめるだけじゃ、全然気持ちが追い付かなくて。
「圭吾…」
「なに」
「圭吾のこと全部教えて」
「全部?」
「うん、辛いこととか悩んでることとか。小さい頃のことも、省吾とのことも」