恋するキオク
「……っ、なん…で…」
野崎がしてる辛い思いは、オレの想像してたものなんかよりずっと大きかった。
それなのに、安易に考えてた自分が腹立つくらいに情けなくて。
「待って、泣かないでよ…。圭吾に泣かれたら私困るっ」
「っバカか…」
違うだろ。
それはオレだよ。
お前に悲しい顔されるたびに、やっぱりこんな想いは消してしまった方がいいんじゃないかって考えてた。
それでも弱い部分で、どうしても手を伸ばすように野崎を求めてしまって。
自分だけが傷つくなら平気なのに…、なんでこうなるんだよ。
「圭吾、離れたくないよ…」
オレは小さく泣き出す野崎をもう一度抱きしめて、深く息を吐いた。
もう戻れないなら、オレにできることはひとつしかないから。
「離れないよ」
離れない。
どこへも行かない。
手術なんかしなくたって、ピアノは今と同じように弾けるんだ。
もともと高い技術を望んでたわけでもないし、オレには今、野崎の方が大切だから。
暗く沈んだ部屋の中で、それでもお互いの存在があることを感じられるように強く抱きしめ合う。
身体だけじゃなく、心の奥からすべてを重ねて。
明日がわからなくても、未来なんて見えなくても。
この繋がりさえ嘘じゃないなら、もう何も望むことなんてない。
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