恋するキオク
愛の境界線
私物は置いて帰らない。
学校では
なるべく圭吾とも話さない。
教室でのみんなの様子は、それからもやっぱり変わることなんてなかったけど
圭吾が近くにいることを感じるだけで、私は前よりもずっと強くいられた。
私を後目にクラスの女の子たちが圭吾に話しかけても、時々突き刺さるような言葉をかけられるようなことがあっても
もう不安になる必要なんてないんだもん。
「圭吾くん知ってる?野崎さんてさぁ、裏では結構エグイことやってるらしいよ」
「そうそう、このままだと圭吾くんだってやばくなるって!」
「だって米倉先輩はすでに被害者でしょ?」
「怖〜っ」
「……だから、何?」
「えっ…だから、ねぇ……」
窓際の一番後ろ。
いつだって私のことを見ていてくれる。
「そんなのお前らに関係ないんじゃない?いちいちうるさいよ」
圭吾のそんな態度に、せっかく仲良くなれたみんなとの関係も壊してしまいそうで、複雑な気持ちもあったけど。
目が合えば、私にだけ笑いかけてくれる。
そんな瞬間にも、幸せを感じずにはいられなかったから。
圭吾…
私たち、通じ合ってるよね?
疑うものなんてない。
そんな関係。
「陽奈」
廊下の方から私を呼ぶ声。
圭吾を振り返ると、その表情は険しくなってたけど
私は首を振ってそれに応えた。
大丈夫だよ、一人で行ける。
廊下で待つ省吾の所まで歩いて行くと、まわりのみんなの中からもざわめきが聞こえてきた。
部活に出なくなって数日。
こうして顔を合わせるのも、なんだか久しぶりに感じた。