恋するキオク
流される視線をくぐりながら、時々話してた階段の陰に姿を隠す。
それでも噂話を誘うように、何人かの生徒は様子を伺ってきたけど
省吾も私も、それに気を取られるようなことはなかった。
「何日部活休む気?そろそろ出ないと、安住たちも困ってるよ」
「別に困ることなんて…ないと思うんだけど」
安住というのは、私の所属するフルートパートのリーダー。
どうせ楽器もまだ直ってないし、私が大会に出られる確率はほとんど無くなってるから、このまま部活に顔を出すつもりはなかった。
それに安住先輩は、結城先輩とも仲がいいから…
とても普通な雰囲気でなんていれそうにないし。
「他の部員がどうだって、オレは陽奈に出て来てもらわないと困るんだけどな。顔見れないと寂しいし」
そう言って近づく省吾から顔を背ける。
そんな私の反応に、省吾の視線は一瞬色を変えた。
「野崎、授業始まるぞ!」
「あ、はい」
担任の声で、
その視線から逃げる私。
教室に戻ろうとする私の腕を取り、省吾は昔のように優しく囁く。
「とにかくこれは部長命令。ちゃんと今日は出て来いよ?」
手を振って走って行く笑顔は変わってない。
それなのに、こんなにも今までと違うように見えるのは
きっと私の省吾への気持ちが、変わってしまったせいなんだろうね。
「……省吾」
「それで?今日は部活出るんだ」
「うん、圭吾はお店行くの?」
誰もいない校舎裏で話す短い時間。
それでもお互いの顔を存分に見つめられるだけで、ほのかな幸せが込み上げる。
「そうだな、バンドの奴らとも最近会ってなかったから。話しておきたいこともあるし」
「……?」
そう言いながら少し遠くを見た圭吾の気持ちが、ちょっとだけわからなくて不安にもなったけど
またこっちを見て笑ってくれると、そんなことも風のように流れてしまった。