恋するキオク
慌ててそれを拾い上げて、付いてしまった汚れを払って行く私の後ろで
安住先輩は腕組みをしながらじっと様子をうかがってる。
「うらやましいわね。裏切ってまでも味方してもらえるなんて」
でも、もうそんな言葉に毎回動揺してるわけにもいかないから。
きっとこれから、当分は耐えないといけなことだと思うし。
「ちゃんとキレイにしてもらわないと困るから。あなたは関係ないかもしれないけど、私たちそれ着るんだからね?」
足下に落ちていたブレザーを一枚拾って、安住先輩は私の上にそれを投げ付けて来た。
そしてその衣装についていたホコリが、私の視界をちらつかせる。
「コホッ…コホッ」
「ちょっと、そういう大げさなことやめてくれる?そんな振りしてる暇あったらさっさと片付けてよ」
少し強めの口調でぶつけられる声。
もしかして部員の誰もが、私に対してこんな気持ちなのかな。
そう思いながら塵にまみれてると
「どう?一人でできそう?」
暗い倉庫にうっすらと明かりが入り、そこには様子を見に来た省吾が立っていた。
「あ、米倉くん!それがね、私も少し手伝うって言うのに野崎さんが一人でやろうとするから衣装全部落としちゃって…。これ大丈夫かな」
「あー…、陽奈は無理するからなぁ。オレも手伝う?」
「でも米倉くんは今から合奏まとめないとダメでしょ!」
「そんなこと言ったら安住もメンバーだろ?」
「そうだけど、野崎さん可哀想だし…」
「私一人でできますから」
冷たい態度は
省吾がいない場所だけか…
つまりそれは、省吾の近くにさえいればこんな目には遭わなくて済むということ。
でも私は、省吾には頼らない。
「本当に一人で大丈夫?」
「はい」
うっすら笑う安住先輩と、少し心配そうに覗き込む省吾に、私はさっと背を向けて作業を始めた。
圭吾と一緒にいたいから
圭吾には
もう心配させたくないから
私は絶対強くなるって、決めたんだもん。