恋するキオク
本当の息子であるオレの方が気を使われるって、どうなんだろうな。
おかげでオレは、もう自分では制御ができなくなってた。
このまま、行くしかないんだよ。
鞄に入っていたペットボトルのお茶を一口飲んで、オレは自分の制服を整えてから陽奈にもそうした。
眠ってるのか、気を失ってるのか。
陽奈を抱いたって、余計虚しいだけだった。
「陽奈…」
目を開けない陽奈を抱えて階段を下りると、沢さんが普通じゃない顔でオレを見上げてる。
なんなんだよ。
「省吾くん…、何があった」
「何って?別に。愛を確かめ合ってただけだけど」
「陽奈ちゃんは!一体どうした」
沢さんは陽奈の顔を覗き込む。
頬に触れて、何度も名前を呼んで。
「病院に連れて行った方が良いんじゃないか」
「すぐ起きますよ」
「だめだ!何かあったらどうするんだ」
そう言って車の鍵を用意した。
オレがその場に立ってると、オレも押されるように車へ乗せられて。
「省吾くん、君は陽奈ちゃんを本当に大切に思ってるのか」
「当たり前でしょ」
「そうかな…。圭吾くんの方が、陽奈ちゃんを必要としてるし、心から大切に思ってるんじゃないのか」
圭吾の名前を出されて、オレはバックミラー越しに沢さんを睨み付けた。
どうしてそんなこと、沢さんに言われなければいけないんだ。
「…そんなに圭吾が大事なんですか」
「悪いか?言っておくけど、オレは君の味方はできないよ。圭吾くんのことを、これでもいろいろ分かってあげてるつもりだからね」
「自分の子供でもないくせに?」
「我が子同然に思ってるさ!」