恋するキオク
苛つく。
誰もが圭吾圭吾って。
病院に着くと、先に連絡していた陽奈の両親も到着していた。
オレと陽奈が付き合ってることは、何度か会ったことがあるから知っている。
「あぁ…、君はたしか省吾くん!陽奈に何があったんだ」
「わかりません。でも最近疲れていたようなので、そのせいだと思います」
オレが丁寧に返すと、陽奈の両親はオレが一緒にいたことを感謝してくれた。
オレが陽奈の近くにいてくれて良かったと。
隣で渋い顔をする沢さんにはいい気味だった。
そして陽奈を診察してくれた医者が出てくると、両親はすぐ側に駆け寄って。
深夜近くの静かな病院の廊下には、耳を澄まさなくたってその声はよく聞こえてきた。
陽奈に、記憶がない…
「うそだろ…」
一番落胆したのは沢さんだ。
両親はかろうじて自分達のことは覚えているということを知り、安心してる様子だった。
オレはといえば、神様のいたずらなのか微笑みなのか。
圭吾を想ってた時の陽奈なんて必要なかったから。
半分ショックを受けながらも、緩む口元を抑えられなかった。
オレはこれからも、恋人だったという事実を話して陽奈の隣にいればいい。
医者は精神的なものだから、記憶は戻る場合もあると言った。
ただ、長い時間をかけて積み重なってきた悩みや不安がそうさせてるから、いきなり思い出させようとするのは逆効果らしい。
つまり、その原因になってるものは極力近づけない方がいいと
オレはそう陽奈の両親に話したんだ。
「すみません。オレの弟のことで陽奈を困らせてたんだと思います」
これでもし圭吾が帰ってきても、陽奈に近づくことはできないから。
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