恋するキオク
一人で日本を発った飛行機の中。
決心はしてきたけど、やっぱり野崎のことは心配で仕方なかった。
本当に置いて来て良かったのか、オレがいない間にも何か問題が起こったりしないだろうか。
でもふと窓から見える海を眺めれば、頑張れと言った野崎の笑顔が浮かぶようで。
オレは深く息を吐きながら、自分の落ち着かない気持ちをなだめるように目を閉じた。
肩が治ればすぐに帰れる。
そしたら今度こそは、ずっと離れないで野崎の側にいれる。
自由に動く肩で、弾きたいと願っていた曲だって…
「待ってろよ」
オレは握る手にぐっと力を込めた。
空港に到着すると、前に聖音で会った女の人がオレを待っていた。
この人がこっちの医者との取り次ぎをしてくれたのかはよく分からない。
そしてこの人自身のことも。
でも今は、目の前にいるこの人に従うしかなさそうで。
「お久しぶり。手術、受けてくれることになって良かったわ。私は付き添っていられないけど、病院との話は終わってるから、言葉が通じなくても心配ないわよ」
「日常会話くらいの英語なら大丈夫です」
「そう。さすがね」
そう言って差し出された右手。
検査から手術が終わるまでは、精密な機械の電波を妨害されるのは困るからと、オレは携帯を没収された。
反論したけど、ここにきた一番重要な理由を忘れるなと、逆に強く言いくるめられて。
たしかに、そうだとも思ったんだ。