恋するキオク



春乃の固まった顔を見て、私はそのまま後ろを振り返った。



「っ圭吾くん!」



思わずそう呼んでしまったけど、馴れ馴れしかったかとかそんなことを考えてる余裕もなくて。

私はちょっと省吾に似たその顔を見上げながら、息をするのも忘れて立ち止まってた。

省吾の視線とは違う、冷たい眼差し。



「……誰」


「え……あのっ…」



誰って……先週会ったばかりなのに、やっぱり私のこと見てなかったのかな。

あの時、なんとなくこっちを見た気はしたのに。



ただオロオロする私を、圭吾はじっと眺めてる。



「……あの、同じクラスの野崎陽奈です。よろしくおねがいします」



誰って聞かれたから、とりあえず自己紹介をしてみたんだけど。

ペコッと下げた頭を戻すと、圭吾はすでに自分の席の方へと歩いてた。



圭吾くん……





「ちょっと陽奈ぁ!私まで緊張したじゃん!いきなり恐ろしい場面作らないでよっ」



耳元で話す春乃の声も、なんだか遠く感じる。

私はまた、窓の外を眺める圭吾の背中を遠くから見つめた。



「うん…びっくりしたね……」



変なドキドキで、私だって瞬きもできなかったんだもん。



だってあんなに冷たい視線なのに

瞳の奥が、すごく綺麗だったから…





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