恋するキオク
あらゆる検査をこなす中で、何度も考えた野崎のこと。
野崎は気づいてないけど、一番最初に出逢った音楽室前の廊下のことから
同じクラスになったこと、初めて話しかけられたことも。
省吾の彼女だと知ったって、本当はそんなこと別に関係なかった。
伝えるわけでもない、秘かな想いのままで構わないと思ってたから。
それでもいつしか距離が縮まって、二人で過ごせる時間も増えて。
野崎が願ってくれるなら、オレはこの肩を治さなければいけないんだ。
そして自由になった身体で、野崎のための曲を作らなければいけないんだよ。
オレが野崎を、想った証として。
手術の間、オレの頭の中にはあのCDの中にあった曲が流れ続けてた。
父親がオレに残した曲。
そして聖音で弾かされたあの曲。
肩のせいもあって思い通りには弾けなかったけど、タイトルに惹かれてよく幼い頃に練習してた。
『K』
きっとオレのための曲に違いない。
そう思ってたんだ。
でも、ある程度の歳になれば、あの曲のメロディーが奏でる想いの相手は
息子というよりは、恋人って感じだということくらい理解してたけどさ。
今度は、もっと上手く弾けるかな。