恋するキオク
「病院までは付き添ったんだけど、省吾くんと陽奈ちゃんの両親の前だと居にくくてさ。いろいろ聞こうとしたんだけど…」
「いいって。沢さんの存在は、オレにとって誰よりもありがたいから。その話を聞けただけで十分」
「そうかな…。圭吾くんの力になりたいとはいつも思ってるけど、なかなか上手くいかない」
沢さんの苦笑いを見て、オレも同じ顔を返した。
オレだって、全然思うようには行動できてない。
どう動くことが正しいのかも、未だに分かってない。
「省吾が一緒にいたなら、省吾が一番良く分かってんだろ。だからあいつと話すよ」
「…大丈夫か?」
「一応兄弟だから別に問題なんてない。その前に…、一度野崎に会ってくる」
「あ、それなんだけど…」
病院は学校の見える高台にあった。
毎日通ってたんだ。病院の窓からだってその校舎を眺めてれば、きっとその頃のことも思い出せる。
オレはそう思いながら、長い一本道を走っていた。
そして沢さんが店を出る時に言ったこと。
急激な記憶の回復は逆効果だから、オレは顔を合わせない方がいいのかもしれないって。
それに、その部分の記憶が欠けてるからって、今後にそれほど支障を来すものでもないから
最悪戻らなくても、普通に生活していけばいいと、医者が言ってたって。
それならオレは、そうすればいい?
どうせ何が正しいかなんて、理解できるほど器用でもないんだ。
思うままに動くしかないだろ。
「関係ないよ、そんなこと」
聞いた病室の番号を案内版で確認する。
行楽日和のこんな日も、病院にはたくさんの人が詰めかけていた。
急いで走って。
ぶつかりそうになる人混みを避けながら、ただ真っすぐに目指す目的の場所。
そこに、オレの全てはある。