恋するキオク
そして生活科の時間。
想像はしてたけど、やっぱり圭吾の近くには誰も座らなくて。
チャイムが鳴り終わる頃、私は静かに一番後ろの席に座った。
圭吾の隣。
少し離れてるけど、風に乗った微かな香りが私の場所まで届いてくる。
もう少し、話せるかな……
「えっと〜、それでクラスの出し物ですが、見せるものにするか、参加型にするかでまずは決めたいと思います」
クラス委員が前に出て、みんなに意見を求める。
圭吾が何か案を出すとは思えないけど、せめて当日には一緒に参加できるような、そんな出し物に決まってくれればいいと思ってた。
せっかく同じクラスなんだもん。
きっとみんなと一緒に思い出を作れた方が、いいに決まってるから。
隣の様子をうかがってみても、見えるのはずっと後頭部だけど
話は一応聞いてるみたいで、圭吾は時々黒板の方に目をやっては、また窓の外を見ることを繰り返していた。
きっと、来たくないってわけじゃ、ないんだよね?
「では、うちのクラスの出し物は見せるものということで良いですか」
「その方が出番終わったら自由に他の所回れるしいいよね」
「店とか出すとずっと動けないからな。じゃあ歌うとか寸劇とか?」
「劇とかだと作り物大変だって!」
みんなの中で、話はどんどん進んで行く。
私はちょっとだけ隣を見て、大きく深呼吸をした。
歌に劇か……
圭吾くんは、どう思う?
少しだけなら、聞けるかな…
頭の中では簡単にできるのに、本当に動こうと思うとびっくりするくらい緊張した。
伸ばす腕の先にある指が、やけに震える。
ポンポン…
「ねぇ、圭吾くん……」