恋するキオク
野崎の様子でも聞けるんだろうか。
オレは腕を引かれるまま、肩をすくめてその友達に近づいた。
今後のこととか、学校に戻れる日はいつだとか、知りたいことはいろいろある。
でも本当は、もっと聞きたいことは別にあって……
オレのこと
わずかでも覚えてないのか?
「ねぇ、省吾先輩に見つかるとやばいんじゃない?あんまり仲良くないんでしょ?あ、陽奈ね、身体的には大丈夫だから。普通に歩けるから問題もないし。でも検査があるからってまだここにいるんだけど。
それよりいつ帰ってきてたの?なんかずいぶん前に手術しに海外へ行ったって陽奈から聞いてたけど…。それにここ来ても多分会わせてもらえないし、っていうか私でもまだ二人では散歩もさせてもらえなくてさ。なんか看護婦さんの付き添いがないとダメみたいで、省吾先輩にも信用されてないっていうか…」
「おい」
「あ、ごめん!なんか話したいことが山で。えっと〜…」
「細かいことはいいよ。つまりどうやったって今は会えないんだろ」
何を聞くより、できれば会って直接野崎に確かめたかった。
身体のことも、オレのことも。
「え、あ…うん。そうだなぁ…う、ううん!ちょっと待って。もしかしたら上手くできるかもしれない。そうだ、私なんとかしてみるから!」
「……?」
日は照っていても、木陰は涼しい。
待ち合わせ。
そういえばオレは、野崎と待ち合わせなんてしたことなかった。
思いのままに動けば、約束なんてしなくても野崎はそこにいて。
屋上でも、店の前でも。
心に思い浮かべれば、呼び合ったように会うことができた。
偶然みたいだけど、きっとあれはそうじゃなくて。
そういうの、なんて言うのかな。
「ほら、陽奈。あそこに座ろ」
「うん」
ドクッ…
思わず右を振り返ると、さっきの友達が看護士と一緒に野崎を外に連れ出してきた。
オレはベンチに腰を下ろしたまま、視線のやり場に戸惑った。