恋するキオク



友達がその紙を野崎に渡しながら、なんとかオレの方に向かせようとする仕草がわざとらしくて焦った。

いや、ありがたいけど

今のオレは、
なんか壊れそうで…



「あっ…」


「…………」



その時、風に吹かれた紙が
オレの足下に落ちた。


名簿の一覧。

でも、指先が震えて
上手く拾ってやれない。



「すみませんっ!」


「あ、いや…」



目が、合った。




当たり前だけど、野崎は何も変わってない。

オレに話しかける時の、あの伺うような視線もそのままだ。

ただ



「ありがとうございます」



オレを、知らないだけで。



「……」



軽く頭を下げて戻って行く。

その向こうで肩を落としてる友達。

そんなに申し訳なさそうにされると、オレの気持ちが一層沈むだろ。



「あ、そうだ陽奈!この中で覚えてる名前とかないの?なんとなく気になる文字とかさ」



半分必死。

そんなに立て続けに攻めなくてもいいのに。



「う〜ん…。あ…」


「え、わかるの!?」



っ!

オレの身体にも緊張が走った。



「この人…、省吾と同じ名字」



ドクン


ドクン…




「それ…省吾先輩の弟だよ」


「へぇ!私と同じクラスに弟がいるなんて聞いたことなかった!」



ばか。

知ってたんだよ、お前は。

だからオレたち、近づけたんだろ?



「思い出せない?顔とか、声とか」


「ぅ〜、そんなこと言われても」


「春乃さん、陽奈ちゃんにあまり無理させるのは禁止でしょ?」


「わかってます…けど……」



友達がちらっとオレの方を見る。

オレは立ち上がりそうになる体を抑えた。



今すぐオレだって言えたら

力いっぱい抱きしめてやったら

もしかして
思い出すんじゃないか…




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