恋するキオク



感触がわかるかわからないかの、わずかな力。

私は圭吾の背中に軽く触れた。

振り返ってくれるまでが、なんだかすごく長く感じて。

触れた指先も、ずっと感覚がないみたい。


その時窓から吹いて来た風が、圭吾の髪を優しく揺らして。

私はまた、その奥の深い瞳に無意識に捕われた。


やっぱり似てる……




「……何」


「あ……なんか出し物が見せるものに決まったみたいだけど、圭吾くんは何がいいと思う?歌ったりとか、劇をするって案が出てるみたいなんだけど」



ちょっと、親しげ過ぎたかな。

何も言わないでこっちを見てる圭吾に、私はまた思わず固まってしまった。

まっすぐ見られると、ちょっと苦しく感じる。



「あの…」



どうしよう…(汗)
でもこのまま話を終わらせるのも。



「さぁ。なんでもいいんじゃない」


「え…あ、そっか…そうなんだ!」



圭吾はそう言って、また窓の方を向いてしまった。

でも、言葉を返してくれたことがちょっと嬉しくて。



「一緒に、楽しめるといいよね」



絶対来てほしいって思ったから、私はまた見える背中に向かってそう言ったんだ。

どんな出し物でもいい。

みんなと一緒にできたら、きっと楽しい思い出が作れるから。



特別な思いなんてなくて。

ただみんなで一緒に……それだけのことだった。



この時の私の思いを、圭吾はどう感じてただろう。

余計なお世話だって、そう思ってたかな。

それとも……





「では、バンドみたいな感じで歌うか劇をするかに別れたので、各自よく考えて帰りに多数決をとりたいと思います。以上です」


「ねぇねぇ、どっちにするぅ〜?」


「歌うなら何?合唱っぽいのだけは勘弁だぞ」



生活科の時間が終わって席を立つみんなの中で、私は圭吾の背中を小走りで追った。

この機会に、もうちょっと近づいておきたい

そう思ったんだ。



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