恋するキオク
「肩の調子はどうだ」
「うん…、もう長い曲を弾き続けても苦痛は感じなくなった」
「そうか……」
部屋をぼんやりとオレンジ色に照らすランプの照明が
オレと父親の姿を夜の窓に映した。
幼い頃から、母親だけは少なからず省吾と同じ態度でオレに接しようとしてきたけど、父親は最初からそうじゃなかった。
話しかけられることもほとんどなかったし、はっきり言ってオレには触れられた記憶すらなかったんだ。
省吾を抱き上げる後ろ姿は浮かぶけど、オレに残ってるのはそれを見上げた時の景色だけ。
今はもう何とも思わないけど、あの頃はどうしようもなく寂しかったことを覚えてる。
「圭吾…、お前は私に愛されてると思ったことがあるか」
背中越しに父親が問いかけた。
「…ないかな。どうして」
「正解だな。どちらかと言えば私はお前が憎くて仕方ない。目につく場所にお前がいれば、そこを避けたいとしか思わなかった」
「…………」
わかっていても、言われて平気でいられる言葉ではない。
ずっと見上げてきた背中から視線を落として、オレは心の片隅に微かに気づけるほどの傷を作った。
それはたぶん、昔からかすり傷のようにいくつも作っていたんだ。
でもそれにも気づかない振りをしながら、幼いオレは一人で耐えてきたんだと思う。
締め付ける胸を自分の手のひらで押さえて、流れそうになる涙を唇を噛み締めることで我慢して。
「子供のオレに対して憎しみを感じるなんて、普通じゃないよね。理由……
聞いていいの?」
別に知りたくもなかったけど、たぶん知らなきゃ、前に進めないことがわかってた。
ここを通り過ぎないと、オレはやっぱり独りのままなんだ。