恋するキオク
でも、本当は気づいてた。
私にとって、省吾よりも近くに思える存在がいたこと。
この記憶の片隅にある感情が、忘れる前の省吾に当てたものだってずっと思ってたけど
目を合わせて会話をするうちに、そうじゃないかもしれないって思うようになったんだ。
なんとなく似てるけど、私が見つめてほしかったのはこの瞳じゃなくて
もっと悲しさを含んでるような、それでもすべてを惹き付けるような
…うん、忘れられるわけがない。
あの視線で、想いが繋がってたこと。
あの視線だけで、胸がきゅっと揺れるのを感じてたこと。
そして私は、もう一度その視線に出逢ってる。
この病院の庭で。
その人との間にあったことは忘れても、恋する記憶だけは消すことができない。
それでも
神様が、それを認めなかったんだろう。
だから、忘れなくてはいけなかったんだろう。
出逢った記憶から、すべてを。
「陽奈、冬休みのことだけど」
「うん、お父さんとお母さんには話したよ。省吾が一緒なら安心だし、三学期に間に合うなら行ってもいいって」
「ほんと?良かったー」
ホッとした笑顔で、心からの愛情を注いでくれる。
この人の為に、私はこれ以上を思い出してはいけないんだ。
たとえあの人にまた出会えたとしても
少しずつよみがえりそうなこの記憶が、完全に戻ったとしても
すべてに知らない振りをして、過ごしていかなければいけない。
たぶんそれが、私の運命だから。