恋するキオク


見上げた階段の先、屋上への非常口からは眩しい日差しが溢れてくる。

圭吾の後ろ姿がその光に消えた瞬間、私もすぐ後にその扉を開けた。




バタンっ……


「圭吾く……ん、あれ?」



誰もいない屋上から、街の上に広がる青空が視界をうめる。

圭吾くんは……?




「何なの」


「え…どこ??」



後ろから聞こえて来た圭吾の声。

逆光に遮られながら、私は今いる場所より少し高い位置にある梯子に目をやった。



「圭吾くん」



三段目くらいに腰を掛けて、ちょっと迷惑そうに私を見下ろす。

ここまで追いかけてくると、やっぱり少しうざったく思われたかも。



「あのね…あの、私この前圭吾くんのピアノ聞いたんだ。ほら、あの楽器の置いてあるお店。
すごく上手だなって思って聞いてたの。だから、クラスの出し物の時みんなにも聞かせられたらいいんじゃないかって。
だからピアノを使った何か…」


「なんでお前にそんなこと言われなくちゃいけないわけ」


「え、えっと……そうなんだけど。みんな圭吾くんのことちゃんと知らないし、そういうのでもっとみんなと仲良くなれたら」


「お前は何か知ってんの?」


「えっ……」




上から見下ろしていた圭吾が、ぴょんと梯子からジャンプして私の目の前に立った。

ピアスに反射した太陽の光が、私のまぶたを刺激する。



「お前はオレの何か知ってるのかって」


「それは……」



何かって……省吾の弟だってことと、ピアノがすごく上手なことと……

それだけだけど……





「きゃっ」



私が黙ったまま下を向いてると、圭吾は急に私を後ろのコンクリートの壁へ押し付けた。


怒らせた……?



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