恋するキオク
ありがとう、そしてさよなら
その命の灯火が消える瞬間まで
カイは、ユリアの気持ちが自分一人に向けられることを望んだりはしなかった。
一度は親友の元から連れ去ってしまった想い人。
それでもそれは、決して自分の身勝手な考えだけの行動ではない。
ユリアが願うなら…
ユリアが微笑むなら…
カイの中には、それだけの気持ちしかなかったのだ。
生まれ変わり、再び出逢うことを願うなんて、それは哀れみにも似た無垢な感情なのかもしれない。
でも確かなのは、そこに、相手を想う心があったということ。
今を犠牲にさせることを避けた、カイの行動。
たとえユリアもこの道を望んでいたとしても、きっとこの先苦しめることには変わりない。
それなら共にこの運命を受け入れ、再び出逢うことに願いをかけた方が、誰も傷を負わずに済むのではないか。
たぶん、自分以外には…
カイはユリアを想うゆえに、その元から去ることを決めた。
やがてその命は消えることになるが、たったひとつ、ユリアの中に自分の記憶を残してしまったことに後悔を覚える。
悲しい想い、切ない苦しみ。
そのせいで、ユリアには不必要な重荷を背負わせることになるかもしれない。
でもそれも
いつしかシュウへの想いで、消えてくれるならそれでいい。
最後に残ったカイの記憶は、そんな無欲な感情だった。
「……野崎の場合、すでに忘れてるんだから、問題ないよな」
夏の名残のような積乱雲が、青い空をゆっくりと移動する。
放課後前の静けさに紛れて、オレは理事長室に向かおうと廊下を歩いていた。
何日ぶりだったのか、いづれ去ろうと思っている場所には、ほのかな情も込み上げる。
この学校とも、すぐにお別れだ。