恋するキオク
ふざける善矢から野崎をかばおうと手を伸ばせば、他の奴らまでが冗談半分にオレと野崎をはやし立てる。
騒がしい空間。
でも嬉しくなるような、たくさんの笑い声。
夢みたいだよな。
夢…?
そうじゃないよ。
ずっとこんな雰囲気に包まれたかった。
辛かった日々が、それこそ夢であってほしくて。
それから何日経った頃だったかな。
学校に行くのを迷いながら、それでも毎日曲作りに夢中になってた。
そんなに長い時間のステージでもないのに、何曲も何曲も、野崎を想えば呼吸をするようにメロディーが浮かんできて。
学校に行けば、野崎の顔も見れる。
でも、省吾とも顔を合わせるかもしれない。
別にそれでも良かったけど、オレが顔を出すことでまた野崎に何かが起きないとも言えないから。
「よし、いい感じになってきた」
ーーー〜♪♪
そんな時に、突然鳴り響いた着信音。
ディスプレイの表示を見れば、ドクンと胸にぶつかってくる想いの感覚はごまかせない。
オレは慌てて、通話ボタンを押した。
「…っ野崎!どうした」
「米倉くん?やっぱりこの番号米倉くんだったんだね。KEIGOって入ってたから、もしかしたらって思ったんだけど…」
「あ、あぁ……。でもどうかしたのか?」
淡々と話す。
でも、どこか元気のないような、そんな声。
あの透き通る、明るく優しい声じゃない。