恋するキオク
「陽奈、なんて顔してんの?」
「……春乃」
放課後の教室でぼーっとしてた私に、春乃が近づいてくる。
文の最後にあった名前を見ただけで、信じられないくらいに鼓動が早くなった。
下足箱にあった手紙を抱えて、急いで走った屋上の景色。
何かを思い出しそうな空気と風と、切なさを膨らませる後ろ姿。
気持ちを抑えられなかった私は、平静を装うことに一生懸命で、不自然に明るくしすぎてたかもしれない。
曲を聴かせるから…、そう言われて嬉しかったことも
お互いの呼吸が届きそうなくらい、近くで見つめ合えたことも
ちょっとの時間だけじゃ、いつも通りの自分に戻すことなんてできなくて。
「微妙な顔してる。嬉しそうだけど、でも困ってるみたいな」
「なにそれ。そんなことないよ」
「あ〜、陽奈は覚えてないかもしれないけど、これでも私はずっと前から陽奈の一番の親友なんだからね。誤魔化そうったってそうはいかないんだから。まぁ、私が思ってるだけかもしれないけどさ」
「もぉ、春乃!私だって親友だと思ってるよ」
「そう?じゃあ白状しなさいよ。さっきちょっとだけ米倉くん見かけたけど、何かあったんじゃない?」
「えっ…」
ドキドキ、ドキドキ……
こんなの
絶対にいけないことで
誰にも言えるわけがない、そう思ってた。
でも…
「なんか怒られそうだし」
「なにが!聞かなきゃわかんないわよ」
「うーん。そうなんだけど……」
薄い雲が広がる秋の空。
春乃の反応が怖いから、顔も上げることができない。
だから私は、うつむいたままに言葉を繋げた。