恋するキオク
「なんていうか、私は…省吾と付き合ってるよね」
「うん、そうだね」
「付き合うって、好きだからだよね」
「…普通そうだよね」
「…………」
「…………」
変なドキドキが、時間をすごく長く感じさせて。
言ったら、どうなるんだろう。
信じられないって、否定されるかなって。
そんなことが、ずっと怖くて。
「うん…、なんかね、なんか……、こんなこと言ったら、何考えてるのって思われるかもしれないんだけど」
「だからなに…?」
「…………」
繰り返す深呼吸。
でも、鼓動の早さは変わらない。
言葉を出すまでに、時間がかかる。
「だから私……私ね、よく覚えてないんだけど、米倉くんのことが好きだった気がする……ていうか、今も、好きなんだと思うんだ」
「…………」
スッと吹き抜ける冷たい風。
あー、どうしよう。
言っちゃったの、言っちゃったんだよ。
何も言わない春乃が、どんな顔をしてるのかも見れなくて
ただ目を閉じたまま、私は頬に手を当てて時を待った。
誰もいない教室の中には、風が揺らす木々のさわさわとした音だけが流れて
いつまでも春乃が声を出さないから、不安はどんどん大きくなる。
やっぱりおかしいよね、なにそれって感じだよね。
しかも記憶もないくせに、前からそうだったみたいに…
私、どうしたらいい……?
そっと開いた視界に写る、口元をゆがめた春乃の表情。
そして耳に入ってきた、小さなすすり声。
「春乃……?」
「…………」
「どうして、泣くの…?」