恋するキオク
「んっ……」
「……陽奈」
階段の踊り場。
絡み合う指先と、いつもより少しだけ強引に感じる省吾のキスに
私は酔わされるようにドキドキしながらその瞳を見上げた。
いつもと同じ、優しい視線。
私の髪に軽く指をとかして、再びそっとキスをする。
どんな些細な仕草にも、体全部が求めるように胸を高鳴らせて。
私はまた、省吾に落ちて行くんだ。
「来週から創立記念のイベントに向けて忙しくなるから、陽奈と一緒に帰れる日も少なくなると思うんだ」
「そうなんだ…生徒会って大変そうだもん、仕方ないよ」
頭の上にのせられた省吾の暖かい手の平。
撫でられるたびに、ホッと心が落ち着く。
創立記念のイベント。
うちのクラスの出し物は、劇をすることで決まっていた。
面倒だとか覚えるのが大変だとかで、意見も別れたけど。
結局女子の方が多いうちのクラスは、ドラマチックなことに憧れる割合が強かったみたいで。
バンド形式でかっこ良く歌を披露したいと言う男子の意見は、激しい言い合いの末消滅させられたのだ。
劇の中に歌う場面を入れようってアイデアも出てるみたいだけど、どういう内容になるのかはまだよく分からない。
とりあえず私は、村人Aみたいな感じの役で充分だって思ってた。
「うん、だからさ……聞いてる?陽奈。だから、しばらくゆっくり話せる時間も作れなくなるし」
「あ、うん……」
「それに今日は部活も早く終わるからさ……」
「うん……」
「だから……」
「うん……。え、省吾?」
階段の上を見たり下を見たり。
落ち着かない省吾の様子に、なんだか胸がきゅっとなった。
窓からの夕陽が、私たちをオレンジ色に包んで
まるで告白をされた
あの日みたい。
「……省吾」
「今日うちにおいで」
「えっ……」
省吾の家……?