恋するキオク
愛にかけられるもの
圭吾が好きなの…
どうしていつもオレたちは、応えられない状況で想いを告げ合うんだろう。
いつまでも絡み合うことのない指先を、空で彷徨わせながら
相手の手を取ろうとすれば、そのすぐ近くをかすめて去っていく。
本当なら、オレだって同じ気持ちを伝えられたかもしれないのに
それもできなくて。
答えも出せなくて。
また、すれ違っていくんだ。
今度は自分の力じゃどうしようもできないくらいの、遠い道の向こうで。
「圭吾〜、沢さんに聞いたぞ。昨日は一度も下に降りて来ないし食事もとらない。おまけに、ピアノの音もしないって」
とにかく身体を休めろ。そう言って電話を切ったオレは、そのまま一睡もしないで夜を明かした。
何を考えていたのかも分からないけど、たぶん何も考えてなかったんじゃないかとも思う。
次の日も何もしないで、ただ窓から外を眺めて。
それで心配した沢さんが善矢を二階に上げるから、オレは今、面倒な会話をするはめになってた。
誰の悩みもきっと、オレ以上に複雑なわけがない。
そう思ってしまうくらいに、他人のことなんてどうでも良く、自分のことにさえも投げやりになりそうな勢いだった。
オレにできることなんて、たかが知れてる。
「それにしてもこの部屋、いい具合に寝泊まりできるようになってるんだな。居心地よさそ〜」
「ただの見学なら早く出て行ってくれよ…。くだらないことに答えてる気持ちの余裕はない」
オレが視線を逸らすと、善矢は必要以上に顔をのぞかせてきた。
はっきり言って、反発する気も起こらない。
「お前、また何か壁にぶち当たってんのか?そんなの、次から次へと崩せばいいだけだろ」
「知りもしないくせに適当なこと言うなよ。どんなに必死になったって、崩せないものもあるんだ」
「へぇ〜。それは鉛でできた壁?それとも未知の鋼鉄?迷うより、なにか方法を探す方が早いって時もあると思うけど」