恋するキオク
家か……
省吾の家には何度か行ったことがあるし、別に今回が初めてな訳じゃなかった。
それなのに……
「うん……わかったよ」
耳の奥に響くドキドキはどんどん早くなって
照れて下を向く省吾の様子と二人の間に流れる雰囲気が、なんとなくいつもとは違う空気を作ってた。
なんでだろう……
よくわかんないけど……
全然わかんないんだけど。
でもわかんないくせに……
きっと、そういうことなんだよねって、勝手に全身が鼓動に揺れたんだ。
省吾と付き合うようになって1年が近づいてる。
もう高校生なんだし、そういうことがあったっておかしくない。
私は省吾が好きだから。
大好きだから……
「じゃあもうしばらく練習頑張ろう。イベントの次は地区大会も迫ってるからな」
「うん、そうだね」
私の頬に触れた後、自分の練習場所に戻って行く省吾。
目につく背中とか、腕とか。流れる髪も視線も呼吸の音さえも。
私の胸を熱くしていった。
省吾が好き……
だからきっと大丈夫。
それからの練習のことなんて、全然覚えてなくて。
ずっと悩んでいた圭吾のことも、その時はきれいに頭の中から消えていた。
日が沈みかけた教室。
顔の火照りを冷ますように、外からの風と春乃の笑顔が私を迎える。
私は楽器を手に持ったまま、感覚のない指先で楽譜をめくった。
今日初めて感じることになるであろう省吾の優しい温もり。
想像するだけで、ずっとドキドキが止まらなかった。