恋するキオク



「明後日はどうするんだよ。やるんだろ?ステージ…」


「さぁね…。どうせ野崎のための曲ばかりだし、本人が来ないなら意味もないだろ」


「はぁ?」


「別にいいよ。どうってことない」


「……っ、圭吾!」


「なんだよ」



胸ぐらを掴んできた善矢を、オレは澄まして見下ろした。

なかなか見れない、真剣な顔。



「ふざけんじゃねーぞ…。オレらの気持ち、無駄にすんじゃねーよ」


「それは悪いと思ってるよ。さんざん時間かけて探してもらって。…使用料はちゃんと戻すからさ」


「……なこと、そんなこと言ってんじゃねぇだろっ!」


「じゃあ何だよ!!」




オレが強くにらむと、善矢も怯まずオレを力づくで押さえ付けてきた。

細いくせに、結構強い。



「金とか、時間とか、そういうんじゃないだろ。オレらはお前のこと思って……。本気で応援してんだよ。ズレてるなら、そこに新しい道作れよ。それくらいやってみせろよ!」



単純に、本当に簡単なことのようにあっさりと言う。

それが、尚更ムカつく。



「…勝手なこと……言ってんじゃねーよ!」




ガッ…


ガタンっ!!




「……っ!圭吾!」




そのまま思い切り殴ると、善矢は窓辺の壁に向かって吹っ飛んだ。

それでも、納得がいかないような顔で善矢はオレを見上げてくる。



指先がジンジンしびれて、呼吸はどんどん苦しくなって。



どうしろって言うんだ。

もう現実は曲げられない方向へむかってるのに、何をすればいいっていうんだよ。



どんな結果を選ぶとしても、あいつが傷つくようなことだけはしたくないのに。

オレが引けば、全部うまくいくんじゃないのかよ。



進めない自分が

決められない弱さが

くやしくて、情けなくて



「泣かせたく…ないんだよ……」



握る拳が、強く震えた。




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