恋するキオク



学校からの帰り道。

こんな日に限って、話せる話題も少なくて。

繋がる手は、お互いの鼓動に反応するように感覚を高まらせていた。



空が薄暗くなるにつれて灯っていく街路の光。

いつもと同じ道なのに、こんなにも帰宅時間のにぎわいを感じなくさせる。

時々目が合うその瞬間に、私は体の奥から込み上げる感情で胸がいっぱいになっていた。



省吾、大好きだよ……





「明日は休みだし、今日はゆっくりしていけるよね陽奈」


「うん、平気」



省吾のお父さんは中学校の先生、お母さんは塾の講師をしてた。

だから平日の夕方には、家には誰もいないってことは前から知ってたんだ。



玄関に差す外灯。

省吾が門を開けると、さっきまでのドキドキとは比べ物にならないくらいの緊張が押し寄せる。

目の前にある省吾の後ろ姿が、いつもより大きい。




ガチャッ……

省吾が扉のノブを引いた。




「ただいま。……あ」


「えっ……あ、圭吾くん」



今からどこかに出かけるつもりだったのか、ちょうど圭吾が薄い黒の上着を羽織って家の階段を下りて来た所だった。

冷めた視線が、私と省吾に送られる。



「圭吾、いたのか……」


「自分の家だし。別にいたっておかしくないと思うけど」



険悪な感じ。

圭吾は省吾と私を横目に、それからすぐに玄関を出て行った。



「圭吾くん!」



どこへ行くんだろう。
噂の悪い仲間の所?

それとも……

あの店にピアノを弾きに行くの?



つい背中を追ってしまった視線を戻すと、すぐ目の前には省吾の胸板が待っていた。



「陽奈……」





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