恋するキオク




「絶対泣かせないよ」


「当たり前だ」


「何があっても必ず守る」


「じゃなきゃ渡せるわけないだろ」


「省吾…、オレお前に消えてほしいと思ったことなんてない。昔はずっと憧れてたし、頼りにしてた」


「……」


「確かに嫌ってたけど…、本当の兄だと思ってたことにも変わりない」


「……そう」


「感謝してるよ」




時計の針が時間を超える。

オレは倉庫を出ると、そのまま休むことなく走り続けた。






―――省吾side―――



圭吾が去った後の倉庫には、少し冷たい空気が戻ってきていた。

そして聞こえてきた
静かな足音。




「省吾…」


「……オレ、全然良い子なんかじゃなかっただろ。がっかりした?祖父ちゃん」




もし…、もしもオレの中の感情を止められなくて、本当に圭吾を傷つけるようなことになったら

オレの満足は、きっとその時だけのもので。後には一生の後悔が残るだろう。

だからオレは祖父ちゃんに連絡して、事の成り行きを見ていてもらえるように頼んだんだ。



オレだって、たぶん実際に圭吾が消えることになったら、悲しみがないわけじゃないと思う。

今も、これからも
やっぱり弟だから。



それに

あいつの弾くピアノだって、悪くない。




「省吾、お前はいつも良い子なんかじゃないのかもしれないし、もしかすれば今も本当の姿を見せてくれてないのかもしれない。……でも、圭吾もお前も、私にとっては同じ大切な光だよ」


「…………っ、ぅ…」




袖先の汚れを気にしないくらい涙を落として、オレはどれくらいぶりに泣いただろう。

人前でだって、泣いた記憶なんてもう無い。

でも感情を表に出すことは、今まで経験が無かったかのように清々しくて



あんな圭吾を、羨ましく思った。



こうなる相手が、圭吾じゃなかったら…、そう思ってたけど

圭吾で良かったのかもしれない。

あいつだから、渡せたのかもしれない。




「ちゃんと航空券は用意しておいた。安心して行ってきなさい」


「…うん、ありがとう」




――――――――――――




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