恋するキオク
野崎の家の前に立ち、二階の窓を見上げる。
初めて送って帰った日のことを思えば、自分の変わりようにもなんとなく笑えてきて。
オレは微かに苦笑いをしながら、呼吸を整えた。
オレ、かなり無愛想だったんだろうな…
「野崎ーっ」
オレの呼びかけに野崎が反応して、その窓を開けるまでにはほとんど間がなかったと思う。
たぶん部屋でじっとしながら、オレよりもっといろんなことを考えてたんだろう。
「圭吾…」
「お前やっぱり抜けてるとこあるよな。もしかして約束忘れてた?」
「…ち、ちがうっ。そんなわけないよ!」
「はぁー…、言い訳はいいからさっさと降りてこいって」
「……っ」
ほら、あれ、なんだっけ。
オレたちがやった劇みたいに、離れた二人が窓越しに話してさ
どんな運命に邪魔されても、絶対想い合う気持ちだけは消せないと
信じあった二人の話…
でもオレたちには
もう眩しい未来しか見えないけど。
玄関から飛び出してきた野崎が、不安そうにオレを見る。
「圭吾…なんでここにいるの?」
「お前こそなんでまだここにいるんだよ。来る気なかったのか」
「……ぅ」
必死に首を振って、それでも何も言えないみたいで
あんまり意地悪すぎるのも、可哀想な気がしたから。
「…オレはお前のこと迎えに行くって言っただろ。いつだって、どこへだって、お前がオレを必要とすれば、すぐに飛んで行くって」
ただ黙って泣いて
震えるように、小さくなって
そんな野崎が
愛おしくてたまらなかった。