恋するキオク

――――――



玄関を出ようとすると、再び省吾に抱きしめられた。

愛しい体温を背中に感じると、それからしばらくして携帯がなる。



「春乃からだ……」


「出ていいよ。じゃあまたね」


「えっ、省吾!」



扉を閉めようとする省吾の姿に、なんだか急に胸が苦しくなって。

私はそのまま省吾に駆け寄って抱きついた。

抱きとめてくれる優しい温もり。



「明日は?明日は会えるの?」



土曜日や日曜日には、いつもなら映画を見にいったり買い物に出かけたり。普通にデートするのが当たり前だった。

だから、今週は会わないって言われたのがすごくショックで、不安で。



省吾の家を離れるまでは我慢してたけど、街の方に出た時には勝手に涙が出て来た。






「どうしよぉ〜、春乃〜」


「えー?何ぃ?なんかあったの?」



肩にはまだ省吾の温もりが残ってて、それが一層私の気持ちを切なくさせた。

どうすれば元の関係に戻れるのか、どうすればまた優しく笑ってくれるのか。

辛くて、苦しくて……



「ちょっと陽奈~?」



せっかく掛け直した春乃の携帯にも、ほとんど言葉を返せなくなってた。

やっぱり圭吾に近づいたことを怒ってるのかな。

でも、そういうつもりで話しかけたりしたわけじゃない。



「今からそっち行こうか?」


「ううん……ごめんね。また落ち着いてから電話する。うん、ありがとう」



顔を空に向けて持ち上げれば、涼しい風が吹き抜ける。

さっきまでドキドキして歩いてた道。先週までは省吾と笑って歩いてた道。



どこかで安心して、当たり前に感じてしまってたんだ。

省吾の優しさも、笑顔も。



一人で歩く地面に、街灯に照らされた影が伸びた。

夕闇の虫の声も、低い風鳴りに変わっていく。



「なんだか暗くなってきちゃったな。やっぱり送ってもらえば良かった…って言っても、あんな空気じゃ無理だけど」


省吾の顔を思い出すと胸が痛い。

街を抜けた公園前、溜め息をつきながら通りすぎようと足を早めた。



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