恋するキオク
そんな親のおかげか、省吾はずっと自分に自信を持って育っていった。
いや、本当の所はどうなのか分からないけど、どんな時でも優等生気取りで。
とくにオレよりは、上の立場でいたい思いが強くて。
「母さん、今回の期末テストは学年8位だったよ。結構頑張ったんだけどな」
「何言ってるの、省吾はすごいわよ!あんなに生徒がいるんだもの、8位なんてなかなか取れないわ」
聞こえよがしに成績表を見せる。
そんな会話の前では、トップの成績を取ったオレの結果なんて出せなかった。
だからオレは、いつも省吾がいない場所で後からこっそり褒めてもらってたんだ。
「圭吾は何もしていないように見えるのにできるのねぇ。偉いわね」
認めてもらえてるならそれでいい。
省吾の前でだけ、できない振りをしていればいいんだから。
オレはずっと、自分にそう言い聞かせてきた。
「うん、また頑張るよ」
でもやりたいことができないのは窮屈でもあって。
オレはやっぱり音楽が好きで、高校に入ったってそれを続けたかった。
「あれー、新入生?見学してく?」
「いや…でも……」
入るなと止められていた吹奏楽部。
母親が言う「邪魔になる」って言うのは、つまりオレが省吾より上手く演奏してしまう場面を避けたいということだった。
オレにできて自分にできないことがあると、昔から省吾は普通の状態じゃなくなるから。
――――――
省吾、やめなさいっ!
落ち着いて……
――――――
小さい頃から何度となくあったことだけど、あの大きな事件以来、親はそういう場面にかなりの神経を使ってた。
「キミ、米倉くんていうの?あ、パーカス(打楽器)にも米倉くんているよ。そういえばなんか似てるかも。兄弟?」
「え、いや。関係ないです」
似てる、兄弟だと思われる。
この学校にいると、もしかすればそれさえもが邪魔になるのかもしれない。
省吾がおかしくなったってどうでもよかったけど、親が省吾のことで悩むことはもうしたくなかった。