恋するキオク



好きになってたわけじゃない。

ただなんとなく。

そんな感じだった…それだけのことだった。



そのはずなのに。




「あ、省吾先輩!どうしたんですか」



えっ……


その言葉にビクッとして、オレはすかさず階段の隅に隠れた。

高まる鼓動を
無理に押さえつける。



いやな予感がした。

頭の中が、いろんな感情でいっぱいになった。



「野崎さん、ちょっといい?」


「え〜、また陽奈だけですかぁ?省吾先輩ってば陽奈にばっかり一生懸命ですよねぇ」


「春乃!変なこと言わないでよ!」


「だって本当じゃん。私だって構ってほしいのにぃ」






なぜかその瞬間に、オレの中で何かが切れた。

思わず笑ってしまうくらいに、いろんなことがどうでも良くなったんだ。



こんなこと、バカみたいだ……



また省吾が先で。

オレにはもう、何をすることも許されなくて。



ガンっ!



鉄製の手すりを蹴り上げれば、一階から四階までの階段に低温が響く。



「わっ!何の音?」



部活なんてどうでもいい、学校にさえ来る気もしない。

省吾を知っている奴とは、もう絶対関わりたくなかった。

頭が痛くて、吐き気がして。 



「もういい……」



オレは学校を辞めることに決めた。




< 37 / 276 >

この作品をシェア

pagetop