恋するキオク
好きになってたわけじゃない。
ただなんとなく。
そんな感じだった…それだけのことだった。
そのはずなのに。
「あ、省吾先輩!どうしたんですか」
えっ……
その言葉にビクッとして、オレはすかさず階段の隅に隠れた。
高まる鼓動を
無理に押さえつける。
いやな予感がした。
頭の中が、いろんな感情でいっぱいになった。
「野崎さん、ちょっといい?」
「え〜、また陽奈だけですかぁ?省吾先輩ってば陽奈にばっかり一生懸命ですよねぇ」
「春乃!変なこと言わないでよ!」
「だって本当じゃん。私だって構ってほしいのにぃ」
なぜかその瞬間に、オレの中で何かが切れた。
思わず笑ってしまうくらいに、いろんなことがどうでも良くなったんだ。
こんなこと、バカみたいだ……
また省吾が先で。
オレにはもう、何をすることも許されなくて。
ガンっ!
鉄製の手すりを蹴り上げれば、一階から四階までの階段に低温が響く。
「わっ!何の音?」
部活なんてどうでもいい、学校にさえ来る気もしない。
省吾を知っている奴とは、もう絶対関わりたくなかった。
頭が痛くて、吐き気がして。
「もういい……」
オレは学校を辞めることに決めた。