恋するキオク
「それは甘くなるどころか点数ガタ落ちだね」
「春乃もそう思うよね!じゃあ牧野さんに言ってよ〜、無理だって〜」
春乃との帰り道、私はグラウンド端から、オレンジ色に染まって行く校舎を眺めてた。
生徒会室に灯る蛍光灯。
離れていても、あの明かりを見ると省吾の様子が分かるみたいでホッとする。
まだ頑張ってるんだね、省吾。
「でもいいじゃん、何かそれはそれで面白そうだし。それより原因の米倉くんの方は何の役なの?」
「もう!原因とか言わないでよ」
そして相変わらず学校には来ていなかった圭吾。
でも、近いうちにまた顔を出してくれるはずだって。
私は密かにそう思ってたんだ。
「圭吾くんは裏方だよ。今の所は学校にも出て来ないし、練習もできないから」
「なぁんだ。これで米倉くんが相手役ならもっと面白かったのに」
「春乃!」
圭吾に送ってもらったあの日、私はいろんな感情に揺らされながら圭吾の後ろを歩いてた。
月が思ったより眩しくて、圭吾のひとつひとつの言葉が、思ったより優しくて。
「すぐ元の関係に戻れると思うけど。悩んでないで他のこと考えてたら?その方が楽でいれると思うし」
「でも他のことって言っても…」
「音楽好きなんだろ。じゃあそれで気を紛らわせてればいいじゃん。あいつもいろいろ忙しいだけだよ」
「うん……そうだね。ありがとう」
本当は、もっといろいろ聞いてみたいことがあった。
学校のこととか、省吾とのことも。
あの時弾いていた曲の題名や、好きな音楽のことも。
でも一緒に居た時の雰囲気が、それを拒んでる気がして。
ただ静かに後ろを歩いてるだけで、なんだかすごく落ち着けたから。
そういうとこ、やっぱり兄弟だから似てたりするのかな。
包んでくれるような、存在の大きさ。
省吾のことで悩んでた思いが、自然に融けていく。