恋するキオク
すぐ元に戻れる。
圭吾がそう言ってくれると、本当にそんな気がしたから。
私はそんなに不安を抱えないまま、また何事もなかったように省吾に話しかけることもできたんだ。
「省吾。今日は練習出れるの?」
「あ、陽奈……。ううん、まだ忙しいから無理かな。陽奈はクラスの準備進んでる?」
「うん、まぁまぁ。まだ細かいとこまでは決まってないけど。省吾も頑張ってね」
「ありがとう。早く部活に顔出してゆっくり練習したいよ」
きっとイベントが終わって、また一緒に練習したり、一緒に帰ったりできるようになったら
戻れるんだって思ってた。
今はなんとなくよそよそしくても、ずっと一緒にいたんだもん。
私の気持ちだって、ちゃんと分かってくれてるって。
「省吾、私省吾が好きだよ」
「うん、オレも陽奈が好きだよ。一緒に帰れなくてごめんな」
省吾と帰っていた道を、最近は今日みたいに春乃と帰ることが多い。
あの音楽専門店に差し掛かった時、私は省吾の探していた楽譜のことを思い出した。
「そうだ、春乃ごめん。私ちょっと寄るとこあるから。省吾に頼まれてた買い物あったんだ」
「え、なによ。不仲でもそういう約束はしてるんだね」
「不仲になんかなってないってば!」
頼まれてたわけじゃないけど、省吾が探していた楽譜が、近いうちに入荷するって聞いてたから。
忙しくて寄る暇もない省吾の代わりに、こっそり買って渡したら
喜んでもらえるかなって、そう思ったんだ。