恋するキオク




もうずいぶん暗くなった西の空。



「オレそろそろ行くけど。あいつらのこと待たせてるし」


「あ、ごめん。私も帰るよ」



空気を変えるように帰り支度を始めた圭吾の横で、私も慌てて椅子を片付けた。

今何時だろう。

なんか、あっという間だった……




「あの、あいつらって……」


「お前も公園で会っただろ。オレここに来た後はいつもあいつらと一緒に居るから」


「ふ〜ん……そうなんだ」



いつも、一緒に居るんだって。

澄まして言う圭吾の背中に、ちょっとだけ気を引かれた。



「どうかした」


「あ、ううん。仲良しなんだね、あの人たちと」



やだ…
なんか私、嫉妬してる?

振り返った圭吾に、変に甘えたくなる。



「ねぇ、なんかさ…私は圭吾くんて呼ぶのに、そのお前お前って……嫌かも」


「……」



目を丸くして見下ろす圭吾。

私はその視線に目を合わすこともできなくて、ドキドキしながら下を向いた。



何…、言っちゃってるんだろう。



自分の言葉に驚いた。

静かな部屋。

長い沈黙が耐えられなくて。

変なこと、言わなきゃ良かった。



足が震えてくるのがわかって、指先の感覚までなくなって。

まずいな、こんなの……



そして黙ったまま動かなくなった私に、やがて圭吾は小さく言葉を吐いた。





「じゃあ……陽奈?」



ドクンっ…



息が、止まる。




圭吾くん…




なんだろう、このドキドキ。

なんでこんなに熱いんだろう。



私がゆっくりと顔を上げると、圭吾はうっすらと笑いながら言った。



「……冗談だよ、野崎」



開いた扉の向こうに消える背中。

後を追うことにすら、後ろめたさを感じる。



私、変だ……




< 51 / 276 >

この作品をシェア

pagetop