恋するキオク
許されない想い
‡ ‡ ‡
「もう、誤魔化せないよ」
時刻はもう深夜の二時を過ぎていた。
まもなくこの場所を嗅ぎ付けた追っ手が、躊躇なく目の前の扉を開けるだろう。
カイとシュウ、そしてユリアの三人は幼なじみとして幼少の頃から共に育って来た。
シュウは皇室の警務にあたる警護官の息子。カイはその皇室に仕える執事の孫で、ユリアは代々受け継がれる皇室専用の召し使いの家に生まれた。
日々を皇室の庭で過ごし、戯れ、専属の教師から学問を学ぶ。
異性を意識しない歳頃までなら、一緒にいることにも抵抗はなかった三人。
しかしいつしかシュウがユリアに好意を持ち、二人が付き合うようになった頃から、三人が共に過ごす時間は減っていった。
同時にカイは、自分の中にあったユリアに対する想いを秘めて生きて行くことを決めたのだった。
そして月日は流れ、三人も成人を迎えるような歳になる。
シュウは外交官となり世界を渡り歩く毎日だが、国に残しているユリアの様子が気になって仕方ない。
一方その頃、カイにも婚約者ができていた。
親に決められた相手だが、申し分なくキレイな女性で皇室繋がりと家柄も良い。
これでユリアへの気持ちも捨てられるだろう、カイはそう思っていた。
そんなある日、カイは街で買い物をするユリアと出会う。
シュウが滞在している国へ送るものを買いに来たのだとにこやかに笑うユリアを見て、カイはどこかで押さえ付けてきた気持ちに苦しさを感じた。
何かを真剣に見定める瞳と、時折カイに意見を求める仕草。
そしてユリアの何気ない思い出話で、実はユリアがずっとカイに好意を抱いていたことを聞き、その想いはカイの中でどうしようもなく抑えきれないものになる。