恋するキオク
「もう、誤魔化せないよ……」
告げたわけでもない想い。
ただなんとなく相手もそう望んでいるだろうと引き込んでしまった現状。
ユリアの気持ちも聞かないままここまで来てしまった。
いや、聞かなくても…
言わなくても……
きっと同じ想いに違いないと信じていたから、共に逃げてきたのだ。
変にたて前を付けたいわけではないが、異性を相手にそんな言葉を告げたこともなかった。
カイはユリアの近くにそっと寄り添った。
「ユリア……」
消え入るような声で呼ばれた名前に瞼を開く。
「……カイ?」
‡ ‡ ‡
「ううっ……ぐ……」
「え??ちょっと野崎さん!どこ行くのよ!」
「ごめっ…すぐ戻るから……」
「ちょっとー?」
教室を飛び出す私に、クラスのみんなが視線を送る。
私は劇の内容に耐えられず、その場を逃げ出した。
なんて可愛そうな話なの!?
許してあげなよ〜…
うぅ〜っ
この先の話も全部読んだから知ってる。
結局二人は追っ手に見つかって捕まるんだけど、ユリアはカイを守るために、自分はカイになんて想いを寄せてないって告げるんだ。
出し物となった劇の練習に入ったはいいけど、
すぐに感情移入してしまう私は、セリフを言う前からストーリーを思い出して涙が止まらない。
呆れるみんなに頭を下げながら教室を後にして、私はとぼとぼと階段を上がった。
「あ…ラッキーだ。屋上開いてる…う、うっ……」
澄み渡る空を見れば、少しは気持ちも落ち着くかもしれない。
どうせ作り話なんだしね。
「うぅ…カイ〜……」
と思ったけど
結局再び思い出し泣き。
なんでこんなに同情しちゃうんだろ。
わーん……
「お前何やってんの」
はっ…?
急な声に驚いて顔を上げると、以前と同じ場所には圭吾の姿。
「なんでそこにいるの〜うぅ〜…」
「いや…、なんで泣くんだよ(汗」