恋するキオク
言葉もないまま歩く道。
握られる手の強さで気持ちが伝わってくる。
本当は許せないんだよね、省吾。
殴ってもいいくらいの思いなんだよね。
……手が、震えてるもん。
私、ちゃんとわかってたんだ。
陽奈を信じてる、そう言ってくれてても、本当はこうやって圭吾と関わることが、省吾にとってはすごく嫌なことだってこと。
省吾を不安にすることでしかないってこと。
それなのに、私はなぜかそれを徹底して止めようとは思わなかった。
省吾に嫌われるかもしれない、そんな不安を抱えながらも、どこかで一生懸命言い訳をして。
クラスメイトだから。
省吾の弟だから。
そんなことを、自分にまで必死に投げかけて。
誤魔化すことばかり考えてた。
「さて、明日も頑張るぞ!な、陽奈」
省吾のことは本当に好きなんだ。
何も、悪いとこなんてないんだよ。
私が、ダメなだけ……
「ここからなら大丈夫だよね、陽奈。気をつけて帰れよ」
「うん、ありがとう。省吾」
どう言えばいいんだろう。
省吾が好きだけど、圭吾とも一緒にいたくて。
圭吾の声を聞いていたくて、圭吾の瞳を見ていたくて。
「ごめんね、省吾…」
「何が?オレ陽奈に謝られることなんてないけど」
手を握ったまま、笑顔で顔を覗き込まれる。
私が真顔で見つめ返すと、省吾も真っ直ぐ私を見つめた。
「……謝るなよ」
唇が重なると、同時に涙がこぼれた。