恋するキオク



言葉もないまま歩く道。

握られる手の強さで気持ちが伝わってくる。



本当は許せないんだよね、省吾。

殴ってもいいくらいの思いなんだよね。

……手が、震えてるもん。




私、ちゃんとわかってたんだ。

陽奈を信じてる、そう言ってくれてても、本当はこうやって圭吾と関わることが、省吾にとってはすごく嫌なことだってこと。

省吾を不安にすることでしかないってこと。



それなのに、私はなぜかそれを徹底して止めようとは思わなかった。

省吾に嫌われるかもしれない、そんな不安を抱えながらも、どこかで一生懸命言い訳をして。

クラスメイトだから。

省吾の弟だから。

そんなことを、自分にまで必死に投げかけて。

誤魔化すことばかり考えてた。



「さて、明日も頑張るぞ!な、陽奈」



省吾のことは本当に好きなんだ。

何も、悪いとこなんてないんだよ。

私が、ダメなだけ……



「ここからなら大丈夫だよね、陽奈。気をつけて帰れよ」


「うん、ありがとう。省吾」



どう言えばいいんだろう。

省吾が好きだけど、圭吾とも一緒にいたくて。

圭吾の声を聞いていたくて、圭吾の瞳を見ていたくて。



「ごめんね、省吾…」


「何が?オレ陽奈に謝られることなんてないけど」



手を握ったまま、笑顔で顔を覗き込まれる。

私が真顔で見つめ返すと、省吾も真っ直ぐ私を見つめた。



「……謝るなよ」



唇が重なると、同時に涙がこぼれた。



< 64 / 276 >

この作品をシェア

pagetop