恋するキオク
時に偽ること
―――圭吾side―――
切ない表情をされれば、また一歩近づきたくて。
黙って涙を流されれば、手を差し伸べたくて。
それでもオレを苦しめるかのように、野崎は平気で近づいてくる。
泣いたり、笑ったり。
時々ふくれて、時々不思議顔で視線を返して。
わざとやってんのか?
どうせ、ずっとそこにいてくれるわけでもないのに。
また、あいつのところへ戻って行くくせに。
省吾のことなんてどうでもいい。
だから本当は、オレが野崎にどんな想いを寄せようと関係なかった。
たとえば本気で、好きになることだって。
「なぁ、圭吾。今日はさ、うちに泊まっていきなよ」
「え?…あぁ、うん」
「ほんとか?他の奴らはどうかなぁ。明日平日だし、泊まっていかないかもしれないよな。あ、もしそうだったらどうする?やっぱり二人きりはまずいよな、へへっ」
でも、省吾も本気なんだ。
だからあんな目で、オレから野崎を守ろうと必死だった。
「あたし他の奴らにも聞いてくる」
もしオレが野崎を手に入れようとすれば、省吾の手はきっと、野崎を守るためのものから壊すものへと変わってしまうだろう。
幼い頃、自分のピアノを前にそうしたように。
「圭吾〜、やっぱりみんな今日は泊まってかないってさ、どうする?二人じゃダメか?」
それでも側にいれば、どうしても気持ちは引き寄せられて。
二人でいる時間くらい、本当のオレでいたっていいかなって。
***
別にオレ、
みんなと仲良くなりたくて
やってるんじゃないよ。
***
そのあとに、なんて伝えるつもりだったんだよ、オレは。
「圭吾!あたしの話聞けよ!」
「ん?聞いてるよ」