恋するキオク



「おい、圭吾」


ひとしきりの演奏を終えて部屋を出ようとすると、仲間の一人である善矢に軽く肩をたたかれた。

無言で手招きをして部屋の隅にオレを誘う。

その様子を横目にする他のメンバーは苦笑いで、茜はそれさえにも気付かず部屋を出た。



窓の外から聞こえる賑やかな話し声を耳にしながら、オレと善矢はお互いの距離を近くした。

善矢はオレよりひとつ上で、週に数回定時制の高校に通っている。

繊細な指の動きで奏でる善矢の演奏は、オレも結構気に入っていて。

実力のせいってわけじゃないけど、人柄とか性格とかから、なんとなくオレたちのリーダー的存在になっていた。



「何?」


「お前、今日茜の家に泊まるのか」


「…そうだけど。なんで?」



いきなりの質問。

なんだ、善矢は茜が好きなのか?

そう思ったけど、そういう話でもなさそうだった。



「別にオレらが言うことでもないけどさ、たぶん茜は本気だから、中途半端なこと止めた方がいいぞ」


「は?」



みんな茜の気持ちに気付いてた。

でもそれにはとくに驚かなかったんだ。それより



「お前には他に想ってる奴がいるんだろ?あとから後悔したって遅いんだぞ」


「っ…」



思わず声を押し殺して目を開いた。

なんで、そんなこと言ってんだよ。



「お前の音さ、あの子と会って来た日は違うんだよ。気付かれないとでも思ったのか?言っとくけど、音の才能に恵まれてるのはお前だけじゃないんだからな」



ちょっと得意げに言われる。

さっきの苦笑い…、他の奴らも同じように思ってるのか?



「別に白状しろとか責めるとか、そういうことじゃねぇよ。…友達だから言ってるんだ」


「……ぃよ」


「あ?」


「うるさいんだよっ!」



バタンッ



「圭吾っ」




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