恋するキオク
でもやっぱり、自分じゃない子たちの中にいる圭吾を見るのは辛くて。
本当は、私が隣にいたいから。
一番近くで、あの優しい声を聞いていたいから。
こんなこと、ホントはダメだって分かってる。
でも、省吾とも別れられない弱い自分がいて。
初めての彼氏だったし、すごく好きだったから。
不満なんて、何一つなかったから。
もちろん省吾のことは今も好き。
好きになるのには理由なんていらないのに、別れる時には必要だなんて不思議。
だって、見つからないんだもん。
省吾から離れる理由。
ただね、もしかして圭吾と先に出逢ってたら、何か違ってたかなって考えてしまうんだ。
同じクラスじゃなくても、この広い学校の中で偶然出逢って。
何の隔たりもなく惹かれて、後ろめたい気持ちなんて無いままに二人で話をする。
そんな無意味な想像を、何度繰り返したって仕方ないのに
もしもの世界に、
浸ろうとしてしまうんだ。
「ねぇ野崎さん、聞いてる?
ほら、野崎さんて吹奏楽部でしょ?だから楽譜とか読めるし、ね?」
「えっ…何が?」
隣で一生懸命話しかけられてることにも気付かなかった。
最近考え事をすると、いつもこんな調子。
「もぉ〜!日にちが迫ってるんだから集中してよね。
だからぁ、この場面でバックミュージックみたいなものが欲しいわけ。既存のCDを探す時間もないしさ、ほんの短い小節でいいから作ってよ、適当に」
「あ、あの……よく分からないんだけど、曲作れって言ってるの?」
「そうよ?吹奏楽部ってそういうこともできるんでしょ?」
澄ました顔の牧野さん。
そんなの、できるわけないじゃん。
「別にピアノとかでサラッとやってくれればいいの。生演奏じゃなくて録音でいいんだから」
「でも、ピアノとかなら圭ご……」
……って、しまった。
「ええっ!米倉くんてピアノ弾けるの!それすごいじゃん!さっそく頼んでみる、ありがとう野崎さん!」
「あっ!ちょ、ちょっと待っ……」
「米倉く〜ん!」
これは…やばいかも。