恋するキオク
「それではこれで今日の練習を終わります、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした〜」
毎日陽が沈むまでの練習。
それなりに地区大会でも名の通った学校だったから、遅くまで演奏を続けることも珍しくなかった。
後片付けを終えた省吾に、私は体を弾ませて近づいた。
「省吾っ」
「陽奈。帰ろうか」
省吾が振り返ると、周りからは自然と羨ましそうな視線が集まってくる。
それはもちろん春乃も一緒。
私だけじゃなくて、みんな省吾には惹かれちゃってるんだ。
「あぁ〜あ。私が陽奈よりもう少し早く省吾先輩と出会ってたら、もしかしたら彼女になれたかもしれないのにぃ」
そう言って悶えながら見送る春乃に、私は笑って手を振る。
「何言ってんのよ。また明日ね、春乃」
「はぁ〜っ…バイバイ陽奈ぁ」
春乃も力なく振り返した。
そして視線を戻せば、そこには省吾の優しい表情。
「行こっ」
「うん」
袖口に触れれば、すっと省吾の手が伸びてくる。
でも、もう少し早く出会ってたらか。そういう順番て、関係あるのかな…
私は省吾を見上げながら、その細い腕をきゅっと掴んだ。